歯周炎が起こるしくみとは・・・
からだの内側から上皮を突き抜けて、からだの外側に突き出ている歯のつなぎ目は、鉱物のようなエナメル質と歯肉ですから、そのくっつき方はしっかりしていません。
エナメル質と歯肉が接するところは、からだの例外的に弱いつなぎ目なのです。
つなぎ目のいちばん外側は、うすい上皮が、ただ吸盤のような仕組みでくっついているだけです(上皮付着)。
上皮の下にはいくえにも水平に繊維が走っています(歯肉繊維)。
そして、歯肉の豊富な毛細血管からは、外から侵入してくる細菌などを食べてしまう細胞がしみ出しています。
このような仕組みのおかげで、からだのもっとも弱いつなぎ目から細菌が一気に深く侵入する心配がないのです。
そのかわりに、この部分は容易に炎症が生じやすくなっています。
防衛ラインが弱く、つねに外敵の侵入にさらされているために、ちょっとしたことでかんたんにこぜり合いをはじめてしまうのです。
ある条件が重なったとき、このこぜり合いが、味方の防衛ラインを破壊しながら後退戦に発展します。
つまり、外敵を侵入させないために、みずから歯周組織を破壊しながら防衛ラインを後退させるのです。
歯ぐきから膿が出るという症状は、この後退戦が激しく、しかも長期化したときにあらわれます。
歯周炎は、この弱いつなぎ目からはじまり、この部分には、健康な歯ぐきの場合、1~2ミリのミゾ(歯肉溝)があります。
このミゾのなかには健康な細菌のグループがすんでおり、そこには、外側からは唾液が流れ込み、内側からは歯肉溝液という体液がたえずしみ出しています。
唾液や歯肉溝液には、あるていど細菌をコントロールする能力があります。
健康な細菌のグループが維持されていれば、歯周炎にはなりません。
弱いつなぎ目のなかでも、いちばん問題なのが、歯ととなりの歯とのすき間の部分です。
歯を鏡で外側から見るだけなので歯のかたちをイメージしにくいのですが、歯を輪切りにしたときの歯のかたちは、ずいぶん奥行きがあるものなのです。
しかもこの歯と歯のあいだにある奥行きの部分では、鉱物質の歯(エナメル質)は山型をしていますが、かくれた歯肉は、わずかに谷型をしています。
谷型にくぽんでいる歯肉の下は、歯ぐきをまもる頑丈な繊維は多くありません。
悪いことにこの部分は唾液の影響も受けにくく、たまった細菌が舌でこすり取られるということもありません。
もちろん歯ブラシもとどきにくいので、この部分がいちばん危ないのです。
しかも、歯を金属でかぶせてしまった場合には、この部分のかたちがさらに悪くなります。
出っ張りができてしまったり、ていねいな治療がしてある場合でも、弱いつなぎ目の部分に金属が深く入りすぎる傾向があります。
弱い部分の、そのまた弱いつなぎ目から歯周炎ははじまるのです。
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歯のプラークとは・・・
鏡で見えるプラークは、虫歯と歯肉炎に関係しています。
徹底的に歯をみがいても、数分のうちに唾液のなかの成分が歯の表面に膜を形成します。
これを足場に細菌が歯の表面にくっつきはじめ、口のなかのあちこちの粘膜にかくれた細菌たちがすぐに歯の表面にやってきます。
この歯の表面にくっついたプラークの細菌のおもな栄養源は、食べたものです。
なかでも砂糖やでんぶんなどの発酵性の炭水化物ですが、飲まず食わずでも口のなかの細菌は平気で、唾液中に含まれる糖タンパクも細菌たちの栄養源になるのです。
とくに糖尿病にかかっている人の唾液中には、大量のグルコースが含まれています。
あの独特の甘い匂いのもとです。
ですから糖尿病の人の場合には、砂糖をとらなくてもひどい虫歯になることがあります。
このプラークの中身や量は、感染した細菌の種類、飲食の仕方やその人の唾液の性質、唾液量などに左右されます。
歯肉には、歯のきわに1~2ミリのミゾ(歯肉溝)があります。
歯肉に炎症が生じ、腫れると腫れた分だけミゾは深くなります。
そしてこの歯肉溝からは、健康なとき以上に体液(歯肉溝液)がしみ出してきます。
この歯肉溝のなかにもプラークが形成されていますが、この体液はここにすむ細菌の栄養源にもなります。
炎症がひどくなると歯肉溝の内側の壁から血液がしみ出すこともあります。
こうなると細菌がつくりあげる環境ばかりでなく、人間のからだがつくる環境にも影響されて細菌の種類はさらに複雑になります。
歯を支える組織が破壊される歯周炎は、この歯周溝が深くきたない歯周ポケットに変わることではじまるのですが、歯肉炎を放っておくと、だれでも歯周炎になるわけではありません。
そうなることも、そうならないこともあるのです。
ミゾがドブに変わるかどうかは、細菌の種類とともに、その人のからだの反応に左右されます。
歯肉溝が深い歯周ポケットになり、歯を支える組織が破壊されはじめるときには、歯肉のなかの強い繊維が破壊されます。
歯周病の研究がすすみ、どのような仕組みで繊維が破壊され、どのような刺激物質が働いて骨が溶けてゆくのかがわかってきていますが、組織を破壊する直接の犯人は、細菌ではなく味方の守備隊です。
歯周病の予防や治療において、その人その人のかかりやすさ、ひどくなりやすさを知ることが重要なのはこのためです。
深いドブのなかの細菌が増えると、歯のまわりの骨や、歯を支えるハンモック状の繊維はますます破壊され、ドブは深くなります。
こうして歯ぐきから、膿や血が自然にしみ出すようになり、歯がぐらぐら動くようになるのです。
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歯周病の発症とは・・・
歯周病がそのうち自然に治ってしまう病気なら気にすることはありませんが、歯周病は、自然にはよくならない病気です。
もちろん、原因になる細菌がいるからといって必ず歯周病になるわけではありません。
人によって、部位によって、年齢などのからだの条件によって、かかりはじめの状態で病気の進行が止まることもあります。
しかし、歯と歯ぐきのつなぎ目にできてしまったドブに細菌が大量によどんでいるかぎり、条件が整えばいつでも歯周炎は再発します。
いったん深い歯周ポケットができてしまったところは、あるていど治療が成功し、口のなかのプラークのバランスが保たれているあいだは、活動を休んでいるだけなのです。
ふたたびなにか条件が変わると、歯周病の原因になる細菌が増えるかもしれません。
ここに炎症をひどくする要因や歯周病原菌が増える要因が加わると、ふたたび活動を開始することになります。
からだのなんらかの不調やホルモンの変調、歯に加わる外力などによって、ふたたび病気が爆発することになるのです。
活動期にある深い歯周ポケットのなかにはさまざまな細菌が増えつづけ、歯周ポケットの内側に炎症を引き起こしています。
歯周ポケットの細菌は、その場所により大きくつぎの四つに分かれます。
①歯ぐきのきわの歯にくっついている目に見えるプラークの細菌
②歯肉にかくれた歯の根にくっついているプラークの細菌
③歯肉にかくれた歯の根にくっついていない細菌
④肉のなかに入り込んでいる細菌
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