口の中の細菌の検査とは・・・
歯周病の診断をするための検査は、歯のまわりの歯周ポケットと呼ばれるミゾの深さを測ったり、歯の揺れ具合を調べたり、Ⅹ線写真で骨のなくなり方を調べたりします。
こういった検査は、いまでも重要ですが、もっぱら破壊された組織の状態を調べているものです。
そのなかで、歯周ポケットを探ったときに血が出るかどうか、これだけが、歯周病の活動といま現在の危険性を知るほとんど唯一の状況証拠でした。
歯周ポケットの深さもⅩ線写真による骨の診査も、あるいは歯の揺れ方の検査も、いずれも歯周病によって歯のまわりの組織が破壊された度合い、つまり歯周病による破壊の結果を調べているだけで、歯周病の原因、つまりこれから悪くなる可能性を調べているものではありません。
歯周病原菌がいるかいないかを、かんたんに検査できるとなると、歯周病の診断はずいぶん進歩します。
歯周ポケットのプラークや汚れた歯根をきれいにする処置をしたあとで、歯周ポケットのなかの歯周病原因菌がどのくらいいなくなったかを知ることができます。
ふつうの治療で歯周病原因菌が減らない場合には、薬による治療をすべきかどうか早く判断できます。
外科処置のあとの評価も確実になり、再発の危険も事前につかむことができます。
人間の口のなかには300種類とも400種類ともいわれるさまざまな細菌が、それこそ無数にすんでいます。
しめってあたたかく栄養豊富な人間の口のなかは、この地球上でも細菌のすみやすい指折りの場所なのです。
口のなかの細菌の研究がすすみ、歯周病といってもからだの外側にあたる歯肉が腫れているだけの歯肉炎と、深い歯周ポケットができる歯周炎とでは、細菌のグループがちがうことがわかってきました。
同じ歯肉炎でも妊娠している女性に特有の細菌、歯周炎でも10歳代の若者がかかるものと成人のものとでは細菌がちがうということがわかってきました。
そしてよくよく調べてみると、それぞれの細菌の感染にはさまざまな特徴があることもわかってきました。
歯周炎の細菌を検査する方法は、これまで培養による方法、顕微鏡で見つける方法などが検討されましたが、見つけるべき犯人たちは酸素が嫌いな連中(偏性嫌気性菌)ですから培養はかんたんではなく、顕微鏡でかたちや動きを見るだけでは犯人をかんたんには見つけられません。
海外ではすでに、特殊な細菌の抗体を使って特定の細菌を探す方法や、細菌の遺伝子を目印にする方法などが実用化されています。
歯周病の原因菌が特徴的に産生する酵素の性質を利用して調べるという、簡便で確実な方法が使えるようになっています。
現在、日本で行われている検査の方法は、歯周ポケットにろ紙でできた針を差し込んで、それに歯周ポケット内の体液をしみ込ませるだけです。
痛みも危険もない検査で、15分後には結果が出るかんたんな検査です。
この検査では、歯周病の原因菌として強い疑いがかけられているスピロヘータの仲間、酸素の嫌いなジンジバリス菌とフォーサイス菌がたくさんいるかどうかがわかります。
ひどくなった歯周病の場合は、原因菌を見つけさえすれば治療できる、というわけではありません。
歯周病は、特殊な細菌とからだの国境守備隊のさわぎによって、自分自身を破壊するちょっとやっかいな病気です。
からだの因子と口のなかの環境因子と特殊な細菌が重なり合って急速に悪くなったり、緩やかになったりします。
ですから、悪くなった歯周病を治療する場合には、少々検査が発達しても診断も治療法もガラリと変化することはありません。
歯周病のわずかな兆候を見つけ、歯周病を予防する医療はまだまだ普及していませんが、そのような医療は、細菌検査の発展に大きく助けられます。
歯周病原菌の検査は、かかりはじめの歯周病の診断を早く確実に得て、歯周病の進行を未然に防ぐための大きな手助けになるのです。
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女性は歯周病にかかりやすい・・・
女性の40歳は、更年期の入り口で、更年期とは、月経がなくなる年齢を前後する数年(40~55歳ころ)を指しますが、この時期は女性のからだが成熟期から老年期に向かう移行期で、なにかとからだの変調を経験します。
おまけに子どもの反抗期や受験、夫の家庭離れ、夫婦関係の倦怠期など、なにかと精神的にもストレスの重なる時期です。
この時期の女性には間脳、下垂体、卵巣系に大きな変化が生じるため、自律神経のさまざまな失調が起こりがちです。
ほてり、のぼせ、発汗、冷え症、頭痛、めまい、不眠、腰痛など、その症状は人によりさまざまで、家族のものには理解されにくく、医師もその訴えを「不定愁訴」だとか「更年期障害」と名づけ、真剣にとりあってくれません。
医師は精神安定薬や抗うつ薬、ホルモン製剤を処方しますので、その副作用に苦しむことも少なくありません。
人目にも肌のおとろえ、からだの線のくずれがかくせない年齢ですが、歯の喪失が急速にすすむのもこの時期です。
「子どもをひとり産むたびに歯を一本失う」といういい伝えもあります。
それはお腹の赤ちゃんにカルシウムを取られるからだという説がありますが、根拠のない俗説です。
しかし、歯で苦労するのは圧倒的に女性で、国の統計でも、女性の歯の平均寿命は男性にくらべて、前歯で2年、奥歯で5年も短いのですから、女性のほうが歯で苦労するということには、なにか理由がありそうです。
女性のほうが6年余りも長生きなのですから、歯の寿命をこれに重ね合わせると、男性にくらべて10年以上も長く入れ歯のお世話になっている計算です。
30歳代では、男と女の歯の数には差がほとんどありません。
ところが更年期をすぎると、女性のほうが急速に自分の歯を失っていきます。
女性がオバサンになってしまうのは、年をとるからではなく、気持ちがオバサンになるからだといいますが、そのきっかけは歯を失うことにもあるかもしれません。
若いころとくらべると口元がみっともなくなった、と感じる女性は驚くほど多いのです。
上の前歯がなんだか出っ張ってきた、長いあいだしゃべっていると歯の表面が乾いてくちびるがひっかかったりする、なんだか口の臭いが気になる。
50歳ぐらいになると、このように感じる女性はかなりの数にのぼります。
このような自覚症状をもったときには、時すでに遅しです。
奥歯がなんらかの理由で失われたり、かみ合わせに問題のある治療を受け、あるていど年数がたつと、あごの位置が変化し、これに歯周病が加わると前歯が突き出てきます。
これはもう歯周病も中程度以上、こうなってしまってからの治療は、歯周病の治療とか部分的な歯の治療という範囲ではおさまらなくなるのです。
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女性特有の歯周病の原因とは・・・
ガンにせよ糖尿病にせよ、成人の慢性疾患にかかる人は、なんらかの遺伝的な素因(素質)をもっており、生活習慣や性格によってかかりやすさが増したところに、なにかのきっかけが加わって病気になると考えられています。
歯周病の直接の原因は、細菌感染ですが、細菌感染によって歯周病が発症しひどくなってしまう人は、かならずかかりやすさの因子をたくさんもっており、じつは、女性であることはそれだけでひとつのかかりやすさの因子なのです。
思春期になると女性のからだには、女性ホルモン(プロゲステロン、エストロゲン)が多量に分泌されます。
この女性ホルモンによって歯肉の血液循環が増加し、歯肉は刺激に対して敏感になります。
月経がはじまるようになると、月経前のプロゲステロンの増加によって歯肉に炎症が生じやすくなります。
人によっては、月経がはじまる2、3日前になると歯肉から出血しやすくなるという人もいます。
口臭が気になるという人もあるかもしれません。
ご主人がこれに気づいているということも少なくありません。
歯肉からの出血も、口臭も、歯周病のかなり有力な兆候です。
月経の直前というのは、非常にかかりやすさの高くなるときなのです。
さらに妊娠による女性ホルモンの増加もかかりやすさの因子になります。
女性ホルモン(エストロゲン)は、歯肉を敏感にするだけではなく、妊娠した女性の歯肉炎の部位からは、女性の歯肉炎に特徴的な細菌が見つかります。
この細菌は、歯と歯ぐきのすき間(歯肉溝)からしみ出るエストロゲンを栄養に異常増殖します。
もともとは口のなかの粘膜や咽頭扁桃あたりにいる害のない細菌ですが、女性ホルモンの助けで異常に増えると悪さをします。
更年期の女性の歯の悩みは、思春期から積み重なったかかりやすさによって歯ぐきの健康が失われ、不適切なその場限りの治療のくり返しによって、安定したかみ合わせが失われたことによるもので、この時期にはじまるものではありません。
閉経がどのような理由で歯周病のかかりやすさを高めることになるのかはよくわかっていませんが、臨床的には明らかにこの時期の女性は歯のトラブルを起こしやすいといわれます。
閉経後は骨のなかのカルシウムが失われてしまう骨粗しょう症という病気がすすみます。
重い軽いのちがいはありますが、女性は閉経後、骨のかたちは変わらなくても、骨の中身がスカスカになっていくのです。
このことが歯を支える組織の急速な破壊にも関係しているのかもしれません。
更年期障害や骨粗繋症の治療にはおもにエストロゲンが用いられますので、その副作用で、いっそう歯肉の健康が損なわれる例も多いようです。
また、口の粘膜が乾燥し、テカテカ光り、出血しやすくなる更年期口内炎という症状があります。
灼熱感や味覚異常をともなう不快な状態を経験したら、更年期口内炎を疑う必要があります。
更年期になってから悩んでも間に合いません。
女性にとってなにかと苦痛の多い更年期に、少しでも快適な生活を送るために、女性特有の歯周病のかかりやすさを理解して、かかりやすさが高まる前に、定期的な予防処置を受ける必要があるのかもしれません。
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