自筆証書遺言で氏を欠いた場合

自筆証書遺言で氏を欠いた場合

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相続がやって来たら相続に関する判例2>自筆証書遺言で氏を欠いた場合

自筆証書遺言で氏を欠いた場合

大判大正4・7・3民録21号1176頁

<事実>

当該自筆証書遺言には、署名として「をや治郎兵衛」とのみ記され、遺言者の氏名の氏である「吉川」の表示を欠いていた。

この文字が治郎兵衛氏の筆跡であることは、鑑定により肯定されている。

相続人の1人と思われるXが遺言執行者を相手として、遺言無効ゆえに遺言に基づき移転された登記を抹消すべしとの請求をした。

無効の理由として、@氏の記載がない、A「をや」の2文字を加筆したが、加除変更の手続がない、B文意不明、との3つの理由を挙げているが、本稿では、主要争点である@にのみ触れておく。

原審は遺言の効力を認め、氏の記載を欠いていても、「吉川治郎兵衛を示せるものなること明らか」であるから、氏名の記載のない遺言ということはできない。

そこでXは上告した。

<争点>例えば「タモリ」といった芸名でも氏名に代わりうる。遺言者を特定できることが
最も大切である。居住家屋以外の場所で遺言が発見されたという特殊事例では、特定性が争われる。



<判旨>上告棄却

「民法第1068条第1項が自筆証書による遺言に氏名の自書を要件と為したる所以は、何人が遺言者なるかを明確にするの趣旨なれば、氏名の自書とは遺言者の何人なるやに付き疑を容れざる程度に於いて完全にこれが表示を為すを要すとの意義を有するものと解せざるべからず。

完全の表示を為すについては通常の場合にありては氏名を自署すること必要にして且つこれを以て十分なるべし・・・、遺言の内容その他により遺言者の何人なるやを知るに足り他人と混同を生ずべからざる場合に在りては、氏名を併記せざるも氏または名を自書するを以って十分なりと為さざるべからず。

・・・然れば原裁判所が、本件遺言書には吉川なる氏の記載なきも治郎兵衛とありて吉川治郎兵衛を指すこと明らかなれば氏名の記載なきものというを得ずと説明したるは正当」である。

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